「黒面の狐」三津田信三
【内 容】
あの真っ暗闇の奥から、
何かが私を凝っと覗いている。
戦後まもない北九州の炭鉱で起きた、不可解な連続怪死事件。
主人公の物理波矢多(もとろい・はやた)は満洲の建国大学から日本に帰国し、足の向くままに北九州の炭鉱で炭坑夫となって働き始める。
そこで、同室の合里光範(あいざと・みのる)が落盤事故で坑道に取り残されたのを皮切りに、炭坑夫が次々と自室で注連縄で首を括るという、不気味な連続怪死事件に遭遇する。
その現場からはいつも、黒い狐の面をかぶった人影が立ち去るのが目撃され・・・。
現場に現れた黒面の狐は、人なのか、人にあらざるものなのか?炭鉱で働く屈強な男たちの心を、次第に疑いと恐怖が蝕んでいく。
真相を知るのはただ、ヤマの神と、黒面の狐のみ…?
細密な炭坑の描写の中から、じわじわと迫ってくる恐怖と連続する密室殺人の謎。
本格ミステリとホラーの魅力を併せ持った重厚な力作書下ろし長篇。
【感 想】
刀城言耶シリーズのような、ホラーとミステリの融合なのかと思いながら読んでいきましたが、本格ミステリでした。
主人公の物理波矢多(もとろい・はやた)が、探偵とワトソン役(物語の語り部)の両方を演じているので、推理の筋道がわかりやすく、一緒に謎解きを楽しめました。
戦後すぐの炭鉱を舞台にした話なのですが、戦中・戦後における、日本と朝鮮との関わりが、作者の視点で書かれおり、その点でも興味を持って読みました。
読まれる人によっては、作者の視点に異を唱える人も居るのではないかとは思いますが、私はほぼその通りだと思いながら読みました。
戦争中に、朝鮮人が日本の炭鉱という閉鎖的な場所で、どういう扱いをされていたのか、そしてそのことが、この本の舞台である炭鉱で起きた連続殺人に、どう繋がって行くのか・・・。
最後には、ちょっと驚きの結末が待って居て、息もつかせないまま読了しました。
最終章で、物理波矢多が犯人を指摘するところは、推理が二転三転するという、刀城言耶を主人公とするシリーズでよく見られるパターンと同じでしたので、それなりに楽しめました。
連続殺人が起こり、密室が登場し、もう一つ、良くミステリで登場するトリックが使われ、最後にはどんでん返しが・・・となれば、面白く無いはずがありません。
おそらく、私が毎年作っているベストテンの、今年度のベストスリーに入るだろうと思われる作品でした。
☆☆☆☆★(50点満点で、☆…10点 ★…2点です)
ところで・・・、
刀城言耶シリーズが、2012年の「幽女の如き怨むもの」を最後に、4年も書かれていません。
刀城言耶も待ち遠しい所ですが、本書に登場する物理波矢多が、奇っ怪な事件(木霊殺人事件)に巻き込まれていたということが書かれていましたので、彼を主人公にした新しいシリーズが出来るのかも知れないですね。
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