【解 説】
「武士の家計簿」で知られる歴史家・磯田道史による評伝「無私の日本人」に収録されている一編「穀田屋十三郎」を映画化。
物語の舞台となる仙台出身のフィギュアスケート選手・羽生結弦が、仙台藩の第7代藩主・伊達重村役で映画に初出演を果たした。
「白ゆき姫殺人事件」「ゴールデンスランバー」の中村義洋監督がメガホンをとり、時代劇に本格初挑戦。
江戸時代中期の仙台藩吉岡宿が舞台の実話で、年貢の取り立てや労役で疲弊した宿場町を救うため、藩に金を貸して毎年の利息を地域の住民に配る「宿場救済計画」に尽力する人々の姿を描く。
町の行く末を案じる主人公を、時代劇では初主演となる阿部サダヲほか、瑛太、妻夫木聡、竹内結子、松田龍平という実力派が出演している。
上映時間 129分
【あらすじ】
江戸中期、財政の逼迫(ひっぱく)した仙台藩が領民へ重税を課したことで、破産や夜逃げが続出していた。
寂れ果てた小さな宿場町の吉岡宿でも、年貢の取り立てや労役で人々が困窮し、造り酒屋を営む穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は、町の行く末を案じていた。
そんなある日、十三郎は、町一番の知恵者である茶師・菅原屋篤平治(瑛太) から、藩に大金を貸し付けて、毎年の利息を住民に配るという、宿場復興のための秘策を打ち明けられる。
計画が明るみになれば打ち首は免れないが、それでも十三郎と仲間たちは、町を守るために私財を投げ打ち、計画を進める。
【背 景】
=吉岡宿の様子=
吉岡宿の人たちは、藩から伝馬役(てんまやく)と言う使命を負っていたそうです。
仙台藩の物資をとなりの宿場から受け取り、次の宿場に運ぶという役目です。
ところが、吉岡宿は仙台藩の直轄領では無かったので、藩からの助成金は全くなく、それらすべての運営と経費の負担は、宿場の住民が負うと言う事になって居たようです。
通常の重い税以外に、労役などで持ち出す額が多かったので、重税に耐えかねて町を出る住民が増えるばかりだったということです。
=仙台藩では・・・=
「従四位の下」の官位を欲しいがために、江戸の老中らに多額の賄賂(5万両)を送ったり、幕府の工事(20万両)を自ら買って出る藩主に頭を痛めており、藩自体がどうしようも無い金欠に陥っていました。
藩の財政担当である出入司(しゅつにゅうつかさ)からは、「農民から、搾り取れるだけ、搾り取れ」との指令が出るほどに、困窮していたようです。
【感 想】
原作が、歴史学者・磯田道史さんだと言うことと、スケートの羽生結弦君が、お殿様役で登場するというので、楽しみに観に行きましたが、事前に、内容については、全く知りませんでした。
タイトルから受けるイメージからは、『お殿様にお金を貸して、利息を取り立てるのに苦労した話』かと思って居ましたが、財政が逼迫(ひっぱく)した藩にお金を貸し、利息を取るために、その元手となるお金を集める算段の話でした。
この映画では、ナレーションで、時代の背景や仙台藩と吉岡宿の様子が詳しく説明されていましたので、すんなりと話に入ることが出来たのは良かったです。
吉岡宿の住民の間には、肝煎(きもいり)と呼ばれる庄屋のような存在があり、またその上には大肝煎(おおきもいり)と言った世襲制の役職もあるので、農民の間にも身分制がキチンと引かれていたことが理解できました。
農民では、大肝煎だけが雨の日に傘を射しても良いという、理不尽な事が当たり前に受け居られていた時代なんですね。
映画では、1000両(現在の価値で三億円)という金額を、足かけ八年をかけて用意をする住民たちの様子を中心に据え、それを藩に貸し付けるために、大肝煎や吉岡宿を担当する代官が奮闘する様子などが語られます。
特に、お金を工面するのに奔走した9人と、それを取り巻く人々の様子が、しっかり描かれているのに感心しました。
一人一人の特徴を上手く引き出して、それぞれが印象に残る人物に描かれており、俳優さんたちも見事に演じています。
少ないセリフの人物にも、印象に残るセリフを語らせているのは、脚本家の上手いところです。
また、吉岡宿の住民からの借り入れを受け入れる、代官や藩の財政担当の苦悩ぶりが、良く伝わってきます。
一度は、吉岡宿からの嘆願を却下しますが、再度の嘆願の際に代官から、お金を集める住民たちの苦労を聞かされた出入司が、借金を受け入れを許可する所は、とても興味深いです。
ところで、ミステリなどを読んでいると、良い人だと思われていた人が、実は悪人だったりすることが良くあります。
ミステリでは、犯人が最初からそれらしい人物だったら、すぐにわかってしまうので、仮面をかぶった人物を描いていきますが、現実に、良い人を演じる事はそれ程難しくはなさそうです。
ところがその逆に、話の発端では悪人だと思われていた人物が、本当は心の優しい人だったと言う事が、後になってわかるという話は、芝居などでは、人情話として良くあります。
以前、藤山寛美さんの松竹新喜劇でも、その手法がよく使われ、笑いの中に泣きを織り込んだ芝居に仕上げているのを見た記憶があります。
でも、現実問題として、本当は良い人なのに、周りの人たちから悪人に見られると言う事は、まず無いですね。
一人二人はだませても、世間をだますことは難しいのかも知れません。
閑話休題。
吉岡宿の大肝煎に依頼された代官より、「住民たちが、苦心して集めた1000両分の銭・五千貫文を借りて欲しい」との嘆願書が出ますが、出入司は即、却下との判断を下す・・・とここまで書きました。
もっとも、私が藩の財政担当者だとしても、却下するのは当たり前のことです。
25万両の借金があるのに、1000両ほどを借り入れられたとしても、焼け石に水ではないでしょうか?
ところが、再度の嘆願で、代官より金銭を集める住民たちの苦労を聞いた出入司は、小判にて1000両献上せよとの許可を出します。
小判にするには、寛永通宝であと八百貫文足りない事になりますが、それでも、住民からの借財を受け入れたと言う事です。
しかしながら、残りの八百貫文も、四苦八苦しながらもなんとかかき集め、小判で1000両を作り、藩に貸し付けることになります。
この辺から、ちょっと訳がわからなくなってきました。
なぜ、藩の財政担当者・出入司は、1000両ほどの借財を受け入れたのでしょうか?
しかも、利息の他に、9人に褒美として、出入司の私邸にて賞金(全部で20両ほど)まで与えると言うでは無いですか。
褒美を受け取る場面では、出入司が直接、賞金を渡していますが、人数が一人足りません。
「あと一人はどうした。」
「目が悪いので、歩いて来られませんでした」
「ならば、馬か籠で来れば良いでは無いか」
「子どもの頃より『人は、馬の背に乗ってはならぬ。人は、人の背で担ぐ籠に乗ってはならぬ』との、父の教えを守って居ります」
「この藩で、一番籠に乗っているお方はどなただと心得て居るのじゃ?」
答えはもちろん「お殿様」と言う事なのでしょうが、この場でそういうことを言えば、即打ち首かも知れません。
でも、恐縮して黙って頭を下げていると、苦虫を潰したような顔で、出入司が去って行きます。
今で言えば、不敬罪にあたるような発言なのでしょうが、この件については一切のお咎めも無く、賞金もそのまま持ち帰り、吉岡宿の住民に分け与えたと言う事です。
ますます、私の頭が混乱してきました。
映画の作りがいい加減なのか、何かウラがあるのか・・・と、考えながら見ていましたが、その次のシーンで、突然、羽生君扮するお殿様の登場です。
造り酒屋の家に皆が集まっているところへ、突然、仙台藩の藩主・伊達重村がやってきました。
藩主の耳に、節約の末に金銭を集めたと言う事が聞こえたのか、
「予も、皆を見習って、倹約をせねばのう・・・」
筆を取り、半紙3枚に「春風」「寒月」「霜夜」と書き
「酒銘にせよ」
そう言って帰って行きます。
「今日は、馬も籠も使わぬ。歩いて帰る」
ゲスト出演の羽生君ですが、重要な役柄ですね。
このシーンで、藩の財政担当者・出入司の、あの苦虫を潰したような顔を思い出し、一人納得です。
権力に流され、長いものに巻かれるのが日本人だとすれば、自分の欲を捨て、他人のために何かをなしたいと思うのも日本人です。
江戸中期に、町の存続を図るため、無私の想いを貫いた農民たちの姿を描いた話しですが、この映画の主役・穀田屋十三郎は、遺言で、
「誇ることをせず、何の栄誉も受けとらず、子孫には、先祖が偉いことをしたと言ってはならない」と、戒めたということです。
このため、これまで子孫は多くを語らず、この吉岡宿の出来事は、後世に広く語り継がれることもなかったと、ナレーションで語られ、映画は幕を閉じました。
エンドロールでは、RCサクセションの「上を向いて歩こう」が流れてきました。この映画にぴったりの音楽です。
忌野清志郎さんの懐かしい歌声を聞きながら、最後までゆったりと座ってエンドロールを眺めて居ました。
【キャスト】
穀田屋十三郎(阿部サダヲ)/造り酒屋
菅原屋篤平治(瑛太) /茶師
浅野屋甚内(妻夫木聡) /造り酒屋、質屋 十三郎とは兄弟
とき(竹内結子)/煮売り屋
千坂仲内(千葉雄大)/大肝煎
きよ(草笛光子)/十三郎、甚内の母
先代・浅野屋甚内(山崎努 )/十三郎、甚内の父
加代(岩田華怜)/穀田屋十三郎の子
穀田屋音右衛門(重岡大毅)/穀田屋十三郎の子
なつ(山本舞香)/菅原屋篤平治の妻
遠藤幾右衛門(寺脇康文) /肝煎
穀田屋十兵衛(きたろう) /味噌屋 十三郎の叔父。
早坂屋新四郎(橋本一郎)/雑穀屋
穀田屋善八(中本賢) /小間物屋
遠藤寿内(西村雅彦) /両替屋
伊達重村(羽生結弦)/仙台藩 第7代藩主
萱場杢(松田龍平)/出入司、藩の財政担当
橋本権右衛門(堀部圭亮)/代官
【スタッフ】
監督 中村義洋
原作 磯田道史
脚本 中村義洋 鈴木謙一
製作総指揮 大角正 両角晃一
プロデューサー池田史嗣 三好英明 鎌田恒幹
撮影 沖村志宏
主題歌 RCサクセション
ナレーション 濱田岳
=6月7日追加=
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